フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(フランス語警察用語)ドアを少し開けてくれれば

ー Qui êtes-vous ?
Si vous entrebâillez la porte, je pourrai vous le dire.
 Il y eut un bruit de sommier. La porte s’entrouvrit et Maigret aperçut une
tignasse de cheveux roux tout frisés, un visage de boxeur, un corps nu qui
se cachait tant bien que mal derrière le battant. Sans rien dire, il montra sa
médaille.
(©Georges Simenon : L’ami d’enfance de Maigret; Chap.5)

「誰ですか?」
ドアを少し開けてくれれば言いますよ。」
マットレスがきしむ音がした。ドアが少し開いて、メグレは赤い縮れ毛のもじゃもじゃの頭で、ボクサーのような顔の男が裸のままでドアの陰にやっとのことで身を隠しているのを見た。何も言わずに彼は警察のメダルを見せた。
(#96『メグレの幼な友達』第5章)

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Qui êtes-vous ?(キエトヴ)あなたは誰ですか?(こうした単刀直入な疑問文も実際に使われることがわかった。)英語では “Who are you ?”

entrebâillez < entrebâiller(アントルバイエ)v.t. (窓やドアを)細めに開く

je pourrai vous le dire(ジュプーレ・ヴディール)私はあなたに言うことができるでしょう(未来形)

bruit(ブリュイ)n.m. 音、物音、雑音、騒ぎ、風評
sommier(ソミエ)n.m. (ベッドの)マットレス

*s’entrouvrit < s’entrouvrir(サントルーヴリ)v.pr.(ドアが)少し開く(単純過去形)ドアのようにドア自体の意志で開くのではなく、人によって開けられる場合に主語がドアでも代名動詞が用いられる。

aperçut < apercevoir(アペルシュ)v.t. 見かける、見つける、見える
tignasse(ティニャス)n.f. もじゃもじゃ髪の頭

frisé(フリゼ)adj. 縮れた

se cachait < cacher(スカシェ)身を隠す(半過去形)

tant bien que mal(タンビアンクマル)どうにかこうにか、やっとのこと、(直訳的には「悪いよりも良いが多く」)

battant(バッタン)n.m.  扉の可動部分

*Sans rien dire(サンリアンディール)何も言わずに(頻用句)
実は sans も rien も「ない」という意味が含まれているので、そのまま受け取ると二重の否定とも考えられるが、むしろ「ない」ことを強調する意図で続けていると思う。

il montra < montrer(モントラ)v.t. 見せる、教える、明らかにする(単純過去形)

*médaille(メダィユ)n.f. メダル、徽章、バッジ
イメージ 1

メグレの事件簿では常に「メダルを見せる」montrer sa médaille と書かれているが、日本での警察手帳と同様なもので、身分証明書と一緒にメダルが組み込まれているパスケース状のものと考えられる。

Carte de police, fin 2012;
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Photo : Ministère de l’intérieure
de la France