フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

フランス語の慣用表現「狂牛病の牛を食べる⇒窮乏生活を送る」

ー Et tu n’avais pas un sou vaillant.

ー Pour manger de la vache enragée, j’en ai mangé, c’est vrai, preuve que je ne me suis jamais mouillé…

(Georges Simenon : Maigret se défend; Chap.3) 

 

「一文無しだったよな。」

食うや食わずの生活、たしかにそうだっだ。その証拠に手を染めることはしたことがないね。」

(#90『メグレたてつく』第3章)

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*メグレは連続宝石強盗団を追っていた。その指示役と目されるのが、アカシア街で隠居生活を送るマヌエル・パルマリで、その動向をメグレの部下たちが交代で根気強く見張っていたのだった。

 

Crédit d’image : L’écran sur Youtube 

Téléfilm #8 “Maigret se défend" avec Bruno Crémer

1993.05 © Dune / France2 

 

Et tu n’avais pas un sou vaillant < avoir(エ・チュナヴェパザンスー・ヴァイヤン)そして君は一文無しだった(慣用表現・半過去形)

*「一文無しである」は多様な言い方がある

être sans le sou(一文無しでいる)

n’avoir pas le sou(一文も持っていない)

n’avoir pas un sou vaillant(ビタ一文持っていない)

n’avoir ni sou ni maille(一文も一銭も持っていない)

 

Pour manger de la vache enragée(プーマンジェ・ドゥラヴァシュ・アンラジェ)狂牛病の牛を食べるために⇒窮乏生活を送るために(慣用表現)

 

**参考過去記事:

フランス語の慣用表現「興奮した牛を食べる⇒ 窮乏生活を送る  (2019.11.01)

#60『メグレ夫人と公園の女』第8章(L’Amie de Mme Maigret)

https://maigretparis.hatenablog.com/entry/2019/11/01/092825

この時の訳は enragé の形容詞が単独で「怒り狂った」「熱狂した」とあるのに目が行ってしまい、「狂犬病に罹った」を見落としてしまったからだと思う。今回同じ表現で「悪い肉を食べるほど」という状態を示すには「狂牛病」と考えた方がいいように思った。結果的には「ヒドイ生活」であることは変わらない。

 

j’en ai mangé < avoir, manger(ジャンネマンジェ)私はそれを食べた(複合過去形)⇒そういうヒドイ生活だった

 

c’est vrai < être(セヴレ)それは本当だ(現在形)

 

preuve que < c’est la preuve que の省略形(プル―ヴク)その証拠として

 

je ne me suis jamais mouillé < se mouiller(ジュニムシュイ・ジャメムイエ)私は身を濡らすことはしていない⇒悪事に手を染めたことはない(複合過去形)