フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

フランス語の慣用表現「興奮した牛を食べる⇒ 窮乏生活を送る」

ー (---) nous habitons le même immeuble.  Nous avons mangé tous les deux de la vache enragée.  Il nous est arrivé de partager une boîte de sardines ou un camembert.  Depuis peu de temps, Bizard travaille régulièrement dans un journal.

(©Georges Simenon : L’Amie de Mme Maigret; Chap.8) 

 

「(---) 私たちは同じ建物に住んでいます。二人とも食うや食わずの生活を送っていました。イワシの缶詰やチーズを分け合うこともありました。少し前からビザールは新聞社でまじめに働いています。」

(#60『メグレ夫人と公園の女』第8章)

 

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弁護士のリオタールは、これまでの批判的な言動を抑え、今の事件で容疑者を弁護する仕事を得たのは、親しい新聞記者のビザールから情報を横流してもらったからだと説明する。

 

nous habitons le même immeuble < habiter(ヌザビトン・ルメーム・イムーブル)我々は同じ建物に住んでいる 

 

tous les deux(トゥレドゥ) 二人とも

 

*Nous avons mangé de la vache enragée < manger(ヌザヴォン・マンジェ・ドゥラ・ヴァシュアンラジェ) 「我々は興奮した牝牛を食べていた」⇒「我々は窮乏生活を送っていた」

la vache enragée そのままの意味では「興奮した牝牛」だが、別の意味として「狂牛病などの病気に罹った牝牛」を指す。この慣用表現の由来は、貧困にあえぐ人々が空腹を満たすため、タダ同然の病気の牛の肉を食べたことにあるという。

闘牛や牛追い祭などで、牛を興奮させて追い回す場合にも使っている。下掲のロートレックの風刺画も同名の絵入り新聞の表紙である。

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Crédit photo : Caricature de Henri de Toulouse-Lautrec pour le journal "La Vache enragée", 1896. @Wikimedia commons

 

Il nous est arrivé de < être, arriver(イルヌゼタリヴェ・ドゥ)我々には~ということがあった(複合過去形)il は非人称

 

partager une boîte de sardines(パルタジェ・ユヌボヮト・ドゥサルディーヌ)イワシの缶詰一つを分け合う 

 

ou un camembert(ウアン・カマンベール)あるいはカマンベール・チーズを

 

Depuis peu de temps(ドピュイ・プードゥタン)少し前から

 

travaille régulièrement dans un journal < travailler(トラヴァーユ・レギュリエールマン・ダンザンジュルナル)まじめに新聞社で働いている