フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(メグレの日常)夫婦間の呼び方

  Il ne l’appelait pas par son prénom, ni elle par le sien.  Elle ne lui disait pas chéri et il ne lui disait pas chérie.  A quoi bon, puisqu’ils se sentaient en quelque sorte une même personne ?

(©Georges Simenon : Maigret et le fantôme; Chap.5) 

 

 メグレは夫人を名前で呼ばなかったし、夫人もメグレの名前では呼ばなかった。彼女はメグレのことを「最愛の人」と言わなかったし、メグレも夫人のことを「最愛の妻」とは言わなかった。互いに何らかの意味で同一人と感じているのだから、それが何になるというのだろうか? 

(#89『メグレと幽霊』第5章)

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*メグレ夫妻が互いにどう呼んでいるかに言及した珍しい個所である。大半の日本人も、同じように互いに名前を呼ぶこともないし、ましてや「ダーリン」「いとしい人」などと言い交わすこともない。フランス語では「トワ・エ・モワ」(君と僕 toi et moi) という人称を使うことが多い。しかし日本語では主語までも省略することになる。

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Crédit photo : L’écran sur Youtube

Téléfilm “Maigret et Le fantôme” de “Les enquêtes du commissaire Maigret” 

© Antenne 2, 1971; ©INA - Institut National de l'Audiovisuel

 

*Il ne l’appelait pas par son prénom < appeler(イルヌ・ラプレパ・パーソンプレノム)彼は彼女の名前で彼女を呼ばなかった(半過去形)メグレ夫人の名前はルイーズ (Louise)である。メグレの名前はジュール(Jules)。

 

ni elle par le sien(ニエル・パールシァン)彼女もまた彼の名前で~しない  

 

*Elle ne lui disait pas chéri < dire(エルヌ・リュイディゼパ・シェリ)彼女は彼のことを「シェリ」(=ダーリン darling) とは言わなかった(半過去形)

 

et il ne lui disait pas chérie < dire(エ・イルヌ・リュイディゼパ・シェリ)そして彼は彼女のことを「シェリ」(いとしい人)とは言わなかった(半過去形)

 

*A quoi bon(アコワボン)それで何になるのか?、それがどうしたというのか?(常用句)

 

puisqu’ils se sentaient une même personne < se sentir(ピュイスキル・スサンテ・ユヌメーム・ペルソンヌ)彼らが互いに同一人だと感じていたからには(半過去形)

 

en quelque sorte(アンケルクソルト)ある意味では、何らかの意味で