フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(フランス語の tu と vous)見覚えのある人間

Vous m’avez reconnu ?  questionna-t-il alors, le visage à la fois peureux et
méfiant.
 Maigret avait déjà eu la veille l’impression de l’avoir vu quelque part, mais il
ne pouvait toujours pas savoir où.
ー Moi, je vous ai reconnu tout de suite.
ー Qui es-tu ?
Vous ne m’avez pas connu, autrefois, parce que je suis déjà plus jeune.  
(©Georges Simenon :Un échec de Maigret; Chap.3)

「私を覚えてるんですか?」とメグレはおずおずとした、いぶかし気な顔で尋ねてみた。
 昨日から彼をどこかで見たような気がしていたが、どうしてもわからなかった。
「私はすぐにわかりましたよ。」
君は誰なんだ?」
「当時あなたは私を知っていませんでした。私はほんの子供でしたから。」
(#76『メグレの失態』第3章)

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*執事の男をどこかで見覚えがあると感じたメグレは単刀直入に質問する。最初は普通に vous で尋ねるが、一方的に知っていると言われて、思わず tu に変える。何らかの事件に関わった人物ではないかと思ったからである。その場合は、立場上警視からは⇒ tu、相手からは⇒ vous の会話となる。結局、彼は郷里の村(サン=フィアクル)が同じで、そこの住人の息子だったことがわかる。
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Crédit photo : L’écran sur
Youtube; Téléfilm “Un échec
de Maigret”
© Dune/France2  
@macri rossi

*Vous m’avez reconnu ? <
reconnaître(ヴマヴェ・ルコニュ)あなたは私を覚えていたのか?(複合過去形)
**connaître と reconnaître の違いは、後者のほうが「すでに知っていた物事を思い出す、再認識する、覚えている」意味であり、単に「知る、理解する」こととは微妙に異なる。微妙と言ったのは、この同じ下りの場面をTV映画では、メグレが ”On se connaît ?”(お互いに面識ありましたっけ?)と
connaître を使っているから。要するにどっちを使っても大きな間違いではなさそうだ。

questionna-t-il alors < questionner(ケスチョナ・ティル・アロー)そこで彼は質問した(単純過去形)

*le visage à la fois peureux et méfiant(ルヴィザージュ・アラフォヮ・プールゥ・ゼメフィアン)おずおずとした、いぶかし気な顔
peureux  adj. おずおずとした、小心な、臆病な
méfiant   adj. 疑い深い

la veille(ラヴェィユ)n.f. 前日、昨日(hier のほうが口語的)

avait déjà eu l’impression de < avoir(アヴェ・デジャウ・ランプレション・ドゥ)すでに~の感じがしていた(大過去形)

l’avoir vu quelque part < voir(ラヴォワール・ヴュ・ケルクパール)彼とどこかで会っていた(大過去形)

mais il ne pouvait toujours pas savoir où < pouvoir(メジルヌプヴェ・トゥジューパ・サヴォヮール・ウ)しかし彼はどうしてもどこなのかを知りえなかった(半過去形)

je vous ai reconnu tout de suite < reconnaître(ジュヴゼ・ルコニュ・トゥドシュイト)私はすぐにあなただとわかりました(複合過去形)

Qui es-tu ?(キエチュ)お前は誰だ?

Vous ne m’avez pas connu, autrefois < connaître(ヴヌマヴェパ・コニュ・オートルフォワ)あなたは昔は私を知っていません(知らないはず)(複合過去形)

*parce que je suis déjà plus jeune(パースク・ジュシュイ・デジャ・プリュジューヌ)なぜなら私はほんの子供でしたから( déjà は「ほんの、ごく」など強調詞。ここで過去のことを言っているのに suis < être の現在形を使うのは不思議?)