フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

フランス語の慣用表現「汚れたシーツに身を⇒ 濡れ衣を着せられ」

ー J’ignore où il est, mais il s’est mis sans le vouloir dans de sales draps, et
c’est pour cela que je suis ici.  Seulement il faudrait que vous ayez confiance
en moi, et je comprends que c’est beaucoup demander.
(©Georges Simenon :Maigret et la Grande Perche; Chap.1er)

「彼がどこにいるかは知らないわ。でも彼は欲してもいないのに濡れ衣を着させられるので、あたしがここに来たのもそのためなのよ。とにかくあたしを信用してもらわなければ、でもそれが高望みなのはわかってるけど。」
(#65『メグレと消えた死体』第1章; 原題は「メグレとのっぽの女」)

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*J’ignore où il est < ignorer(ジニョル・ウイレ)私は彼がどこにいるかを知らない
ignorer  v.t. 知らない、知らずにいる、無視する
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il s’est mis < se mettre(イルセミ)彼は~し始めた、~に身を置いた(複合過去形)

sans le vouloir(サンル・ヴロヮール)それを欲することなく、望まないのに

*dans de sales draps(ダンドゥ・サルドラ)直訳で「汚れたシーツの中に」
訳としては「不利な状況に陥る」「まずい立場に置かれる」などを表わす。犯罪がらみの場合「濡れ衣を着せられる」となるが、和仏直訳で「濡れた衣服」=
vêtement mouillé としてもフランス人には「普通の濡れた服」であって「ぬれぎぬ」の意味としては通用しない。
*《冠詞としての de 》フランスでは敷シーツと掛シーツの2枚のシーツを使うので常に複数形 draps になる。また形容詞が名詞の前に来る種類の場合(例:grand, petit, bon, mauvais, sale など)その時の複数冠詞 des sales
draps は慣習的・文法的に de sales draps に変わる。

参考再出:シーツを使った慣用句
フランス語の慣用表現「二枚のシーツの間にすべり込む」
se la couler douce entre ses draps.


c’est pour cela que ~(セプースラ・ク)そのために~している

Seulement(スールマン)adv. ただ単に、せめて、ともかく

il faudrait que < falloir(イルフォードレ・ク)~が必要だろう(条件法)il は非人称

vous ayez confiance en moi < avoir(ヴザィエ・コンフィアンス・アンモワ)あなたは私を信じてくれなくては(接続法)

je comprends que < comprendre(ジュコンプラン・ク)私は~をわかっている

*c’est beaucoup demander(セボクードゥマンデ)それは望み過ぎだ(慣用句)
c’est beaucoup +inf. ~過ぎる (c’est beaucoup dire.=それは言い過ぎだ)


**事件の概容についてはこちらへ #65