フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(こだわりの酒)昨晩の名残でカルヴァドス

  Maigret poussa la porte du bar-tabac, trouva Lourtie accoudé au comptoir.  Il commanda une fine, parce qu’on avait beaucoup parlé de fines la veille, puis il sortit les photos de sa poche, les glissa dans la main de l’inspecteur. (---)

ー C’est celui qui est au-dessus de la liasse… J’ai tracé une croix au dos...

(©Georges Simenon : Maigret et le tueur; Chap.3) 

 

 メグレがタバコ屋バーの扉を押すと、ルールティがカウンターに肘をついているのを見つけた。彼はブランデーを頼んだが、前の晩にブランデーのことを色々話していたからだった。それから彼はポケットから写真の束を出して、刑事の手にすべり込ませた。(---)

「奴の写真は束の一番上です。裏に✕印をつけました。」

(#97『メグレと録音マニア』第3章)

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*メグレは、額縁屋を尾行してストリップ劇場に入ったという部下のルールティと近くのバーで会う。殺人犯の容貌に似た男たちの写真を見せて、その劇場の中で見たかどうかを確認したかったのだ。案の定、そこの一人が浮かび上がった。日本ではチェック(✔)印が一般的だが、フランスでは(投票用紙など)✕印をつけることが今でも多い。これはダメという意味ではなく、肯定する意味でも使われる。十字架の変形らしく croix と同じ単語だ。

 

**上記の例文で「前の晩にブランデーのことを色々話した」とあるのはパルドン家での食後のことで、パルドン夫人が書斎にコーヒーとカルヴァドスを運んできた。(Mme Pardon était venue leur servir le café et le calvados. Chap.1er)

 

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Crédit photo : Vue d’un bar-tabac, rue de Clichy, Paris 17e

@Google street-view

 

poussa la porte du bar-tabac < pousser(プッサ・ラポルト・デュバータバ)タバコ屋バーの扉を押した(単純過去形)

 

trouva Lourtie accoudé au comptoir < trouver(トルヴァ・ルールティ・アクーデ・オコントワー)  ルールティがカウンターに肘をついているのを見つけた(単純過去形)

 

*Il commanda une fine < commander(イルコマンダ・ユヌフィヌ)彼はブランデーを頼んだ(単純過去形)

fine(フィヌ)n.f. ブランデーの総称。フランスでは一般に、カルヴァドス、コニャック、アルマニャック、マール酒などが飲まれている。

 

parce qu’on avait beaucoup parlé de fines la veille < avoir, parler(パースコンナヴェ・ボクーパルレ・ドゥフィヌ・ラヴェィユ)なぜなら前の晩にブランデーについて色々話していたから(大過去形)

 

puis il sortit les photos de sa poche < sortir(ピュイ・ジルソルティ・レフォト・ドゥサポシュ)それから彼はポケットから写真の束を出した(単純過去形)

 

les glissa dans la main de l’inspecteur < glisser(レグリッサ・ダンラマン・ドゥランスペクトゥー)それを刑事の手の中にすべり込ませた(単純過去形)

 

C’est celui qui est au-dessus de la liasse(セスリュイ・キエトードシュ・ドゥラリアス)その男のは束の一番上です

 

J’ai tracé une croix au dos.< avoir, tracer(ジェトラセ・ユヌクロヮ・ゾード)裏に✕印をつけました(複合過去形)