フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(メグレの日常 )後部デッキ付きのバス

Au coin du boulevard, il trouva un autobus à plate-forme et se laissa ballotter par les mouvements du véhicule en regardant vaguement ces drôles d’ani-
maux, les êtres humains, qui se dépêchaient sur les trottoirs. Pour un peu, ils
auraient couru. Pour aller où ?  Pour faire quoi ?
(©Georges Simenon : L’ami d’enfance de Maigret; Chap.6)

 大通りの角で彼は後部デッキ付きのバスを見つけた。乗り物の動きに身を揺らされるがままに、通りを急ぎ足で歩くこの奇妙な動物たち、人間という存在を漠然と眺めるのだった。もう少しで彼らは駆け出しそうだった。どこに行くために? 何をするために?
(#96『メグレの幼な友達』第6章)

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パリの市営バス(Paris autobus)の路線網は主要な道路を網羅している。地下鉄と同等に市民の足として利用されている。メグレの場合は通勤にはバスを使う。リシャール・ルノワール大通りの自宅から11区の区役所があるレオン・ブルム広場まで歩き、69番のバスでシャトレ広場まで乗り、そこからシャンジュ橋を渡ってシテ島の警視庁まで歩くのだ。(69番の路線はエッフェル塔近くのシャン・ド・マルスと20区役所のあるガンベッタ広場を結ぶ)
戦前から戦後しばらくまでは、車両の後部がデッキになっているバスが運行されていた。メグレはパイプが吸えるのでこのデッキがお気に入りだった。

Au coin du boulevard(オコヮンデュブルヴァール)大通りの角
*un autobus à plate-forme(アノトビュザ・プラトフォルム)デッキ付きのバス
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à plate-forme à l’arrière 「後部」とわざわざ厳密にいう言い方もある。
このノスタルジックなバスは1990年代までは時々パリの街を走っているのを見かけた。まさに20世紀の遺産である。

se laissa < se laisser(スレッサ)されるがままにした、身をまかせた(単純過去形)

ballotter(バロテ)v.t. 揺さぶる、揺り動かす
par les mouvements du véhicule(パーレ・ムーヴマンデュ・ヴェイキュル)乗り物の動きに
véhicule n.m. 乗り物、交通手段

en regardant vaguement(アンルギャルダン・ヴァグマン)漠然と眺めながら

*ces drôles d’animaux(セドロルダニモー)この奇妙な動物たち
drôle(ドロル)adj. 奇妙な、おかしな、変な
drôle はもともと形容詞だが、名詞の前に de を伴って使い、un drôle de ~ で「奇妙な~」という意味になる。名詞によって冠詞が変わる。

*les êtres humains(レゼートルジュマン)人間、人間という存在
この部分はかなり文学的な表現になっている。小説家ジョルジュ・シムノンが単なるミステリー作家ではなく、純文学でも多くの作品を残していることがわかる。

*se dépêchaient < se dépêcher(スデペシェ)急いでいた(半過去形)急ぐ
dépêchez-vous ! 「急いで!」などはよく使われる。

Pour un peu(プーアンプゥ)もう少しで、すんでのところで

ils auraient couru < courir(イルゾーレクーリュ)彼らは走りそうだった(条件法)