フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(フランス語警察用語)人を歌わせる⇒ ゆする、脅す

ー Tu n’as pas été tenté de les faire chanter ?  Je suppose qu’ils sont mariés,
père de famille…(---)
ー Je n’en ai fait chanter aucun…
ー Pourquoi ?
ー Je me contentais de notre petite vie… Je ne suis plus jeune… J’ai assez
roulé ma bosse pour avoir envie de calme et de sécurité…
(©Georges Simenon : L’ami d’enfance de Maigret; Chap.2)

「彼らをゆすろうとしたことはないのか? みんな結婚していて、一家の主だし…」(---)
「誰もゆすったことはないよ。」
「どうして?」
「ささやかな人生で十分なんだよ。俺はもう若くない。静かで安泰な生活を得たいがために仕事を転々としてきたからな。」
(#96『メグレの幼な友達』第2章)

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*Tu n’as pas été tenté de(チュナパゼテタンテ)君は~をしようとしたことはないのか? tenter(タンテ)v.t. 試みる、気をそそる、企てる
この動詞の用法は「受動態」が中心、つまり「その気になる」のは天の神様の指図でそうなるという考えで、自分は受け身なので動詞の活用変化に要注意!
現在 je suis tenté(e) ⇀複合過去 j’ai été tenté(e) ⇀大過去 j’avais été tenté(e)

以前の記事で、メグレが一瞬「ビールじゃないのにしようかな」< Il fut tenté
un instant >という気になった、という場面がある。
tenté < tenter(タンテ)v.t. 試みる、その気にする、誘惑する
il fut tenté の fut < être の単純過去形。つまり受動態。「その気になった」


faire chanter(フェール・シャンテ)直訳では「人を歌わせる」だが、慣用表現で「ゆする」「おどす」「恐喝する」になる。言外に「無理やり」のニュアンスがある。名詞形は chantage(シャンタージュ)n.m. ゆすり、おどし、脅迫。
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往年の名監督ヒチコックの作品にも『ゆすり』という映画がある。英語では blackmail というようで、
sing(歌う)に関係させた用法はない。

ils sont mariés(イルソンマリエ)彼らは結婚している

père de famille(ペールドゥファミーユ)一家のあるじ

Je me contentais de < se contenter(ジュムコンタンテ)~に甘んじる(半過去形)

notre petite vie(ノートル・プティトヴィ)私たちのささやかな人生

Je ne suis plus jeune(ジュヌスィ・プリュジューヌ)私はもう若くない
ne ~ plus は「もはや~ではない」(否定構文)

*roulé ma bosse < rouler sa bosse(ルーレマボス)直訳では「自分の瘤(こぶ)を転がす」だが、慣用句で「渡り歩く」、「転々と職業を変える」など。
bosse n.f. こぶ、たんこぶ、突起、 ラクダのこぶ