フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

フランス語の慣用表現「見かけよりもずっと~」

ー Il vient de temps en temps au Canari… Il fait le tour de toutes les boîtes…
Il s’assied dans un coin du bar et il écoute… Il en sait beaucoup plus qu’il n’en a l’air
(©Georges Simenon : Maigret et l'indicateur; Chap.4)

「彼(刑事)はカナリの店には時々やってきます。全部の店を回ってるんです。バーの片隅に座って話を聞くんです。見かけよりもずっとよく知ってますよ。」
(#101『メグレと匿名の密告者』第4章)

∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞

de temps en temps(ドゥタンザンタン)ときどき
de ~ en ~は「花から花へ」など同じ単語を並べて、繰り返しを意味する用語法として使われる。
イメージ 1

canari(カナリ)n.m. カナリア(小鳥)

fait le tour < faire le tour(フェルトゥール)巡回する、周回する

boîte(ボヮト)n.f. 箱、缶、郵便受け
boîte (de nuit)  ナイトクラブ、キャバレー

s’assied (サッシー)<  s’assoir v. 座る、腰掛ける(現在形、三人称)

il en sait(イランセ)彼は知っている en は総体的なニュアンスで付いている

*beaucoup plus qu’il n’en a l’air(ボクープリュ・キルナンナレール)彼の見かけよりもずっと
基本的に avoir l’air de~(~のように見える)の de~ 以下を省略してまとめた en が前に来ている。この表現は普通、その場にいない人を評して言う場合に使うので、que の後は il か elle がほとんどになる。qu’il n’en a l’air(キルナンナレール)をそのままで覚えるといい。実はこの n’en の ne は否定構文ではなく「虚辞のヌ ne」ではないかと思う。直訳してみればわかりやすい。「彼が見かけでない以上に」ではなく、論理的には「見かけ以上に」が正しいので、心情として「見かけではない」ことが先入観で頭の中で先取りしているのが原因で、この ne が入ってしまうのだと思う。虚辞のヌ ne では否定詞の pas が出てこない。
air(エール)n.m. 空気、風、様子、外観、表情

この引用文の次のページにも、別の人物について、同じ用法の語句が出ていた。
il a beaucoup plus de jugeote qu’il n’en a l’air...(イラボクープリュ・ドゥジュジョト・キルナンナレール)「彼は見かけよりもずっと分別がある。」