フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

フランス語の慣用表現「髪の毛一本さわるな」

ー Je ne vous embarque pas aujourd’hui. Profitez encore de la vie. Mais qu’il
ne vous prenne pas la fantaisie de quitter Paris…
»  Ah !  Une recommandation encore : ne touchez pas à un cheveu de la
Puce, si vous le rencontrez… Cela pourrait vous coûter très cher…
(©Georges Simenon : Maigret et l'indicateur; Chap.3)

「今日はしょっ引かないよ。今のうち人生を楽しんでおくんだな。でもパリを出ようなんて気は起こすなよ。あぁ、もう一つ言っておくが、もしノミ男に出会っても髪の毛一本さわるなよ。すごく高くつくことになるからな。」
(#101『メグレと匿名の密告者』第3章)

∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞ ∞

embarque < embarquer(アンバルケ)乗せる、積み込む、逮捕する、しょっ引く

*Profitez de ~ <profiter(プロフィテ)単純な意味は「~を利用する」「~で得をする」 で、フランスでも『お得な情報』、『絶対損はしない~』などとCMでも頻繁に出てくる言葉だ。ちょっと和訳はしにくいが、考えた末ここでは「今のうちに~しておく」にした。

*(il faut ) qu’il ne vous prenne pas(キルヌヴ・プランヌパ)本文では文頭にあるはずの il faut(イルフォ)が省略されている。que 以下の従属節には条件法 subj.の構文となる。「~する必要がある」「~ねばならない」

*Il(人)prend la fantaisie de~(プラン・ラファンテジ・ドゥ)慣用構文で、「(人)が気まぐれに~する気になる」頭の il は無人称で誰の場合でもつく。これは「気まぐれ」が主体的に考えた結果でなく、何かわからないがその気に取りつかれたことを示すために、無人称の主語を置いたのだと思う。
fantaisie  n.f. 幻想、空想、気まぐれ、奇抜なもの

quitter Paris(キテパリ)パリを離れる

recommandation(ルコマンダシォン)n.f. 推薦、勧告、忠告、書留

ne touchez pas à un cheveu(ヌトゥシェパ・アァンシュヴ)髪の毛一本さわるな、ちょっとでも手を出すな。
イメージ 1
不定冠詞 un(アン)がこれほどの重みをもって使われるのも珍しい。直訳しても日本語としてそのまま通用する表現。
cheveu  n.m.(シュヴ)髪の毛(通常は複数形 cheveux で使われることが多い)

*puce n.f.(ピュス)ノミ、蚤、背の小さい男にも言う
ここでは、普通名詞が綽名として大文字で使われているので、男性であっても女性冠詞の la が付けられている。

rencontrez < rencontrer(ランコントレ)出会う、出くわす

*Cela pourrait vous coûter très cher.(スラプーレ・ヴクテ・トレシェール)これも常用語で「それはあなたにとても高くつくでしょう」。日本語で「高い買い物となった」という表現と同じ。
coûter(クテ)v.i. 値段が~する、金がかかる
très cher(トレシェール)a.とても高い