フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(フランス語警察用語)過去形で話す

ー Il travaillait pour le plaisir de travailler.  C’est un Flamand. (---)

  C’était curieux : parfois elle parlait de lui au passé, comme si les murs de la Santé l’avaient déjà séparé du monde, parfois au présent, comme s’il allait rentrer d’un moment à l’autre.

(©Georges Simenon : L’Amie de Mme Maigret; Chap.2) 

 

「彼は働く楽しみのために働いていたんです。フランドルの人間です。(---)」

 それは奇妙だった。しばしば彼女は彼のことを過去形で話していた。あたかもサンテ刑務所の壁がすでに彼を世界から隔絶していたかのようだった。またしばしば現在形になったが、それは今にも彼が戻ってくるかのようだった。

(#60『メグレ夫人と公園の女』第2章)

 

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*フランス語の文法の問題にもなるが、メグレの捜査中に、訊問している相手がその関係者のことを《あたかも過去の人であるかのように》過去形で話すことに注目することがある。特に行方が知れない人のことを聞き出すときに「過去形」を使ったとすると、その失踪に深く関わっていたと印象づけることになる。

 

Il travaillait pour le plaisir de travailler < travailler(イルトラヴァイエ・プールプレジール・ドゥトラヴァイエ)彼は働く楽しみのために働いていた(半過去形)  

 

C’est un Flamand(セタン・フラマン)フランドル人です。

 

C’était curieux < être(セテキュリウー)それは奇妙だった(半過去形)

 

parfois elle parlait de lui au passé < parler(パルフォワ・エルパルレ・ドゥリュイ・オーパッセ)しばしば彼女は彼のことを過去形で話していた(半過去形) 

 

comme si(コムシ)あたかも 

 

*les murs de la Santé(レミュール・ドゥラ・サンテ)サンテ刑務所の壁 

正式には La Maison d’arrêt de la Santé という。アルセーヌ・ルパンが脱獄した物語でも有名な場所だが、刑務所よりも拘置所の意味合いが強いように思う。今回の事件でも、捜査中に逮捕した容疑者が収容されているので、まだ罪が確定したわけではない。元々サンテ la Santé は健康を意味する単語だが、ここの地に中世以来、施療院 (La maison de la santé)があった場所に刑務所が建てられたので、サンテの名前がそのまま引き継がれたからのようだ。

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Crédit photo : Vue du mur de la Maison d’arrêt de la Santé, la rue Messier, 

Paris 14e @Google street-view 

 

l’avaient déjà séparé du monde < avoir, séparer(ラヴェデジャ・セパレデュモンド)世界からすでに彼を隔絶していた(半過去形)

 

parfois au présent(パルフォワ・ゾープレザン)しばしば現在形で

 

il allait rentrer < aller(イラレ・ラントレ)彼が戻ってくる(半過去形)

 

d’un moment à l’autre(ダンモマン・タロートル)今にも、今か今かと