フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

フランス語の慣用表現「それは花束だ!⇒ あんまりだ!」

ー Vous m’avez souvent menti sans que je vous en veuille.  Je ne suis pas sûr
que le juge d’instruction soit dans les mêmes dispositions que moi.  Or, c’est
lui qui décidera de votre liberté !
 Elle retrouva son ricanement de fille de la rue pour lui lancer :
Ce serait le bouquet !   Qu’on m’arrête, moi !    
(©Georges Simenon : La Patience de Maigret; Chap.1er)

「頼んでもいないのに時々嘘をついてたしな。予審判事が私と同じ気持でいるかどうかはわからない。あんたの自由を決めるのは彼だからね!」
彼女は通りで客待ちをしていた頃のあざ笑いを取り戻して叫んだ。
あんまりだわ! 逮捕しなさいよ。あたしを!」
(#91『メグレと宝石泥棒』第1章; 原題は「メグレの忍耐」)

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Vous m’avez souvent menti < mentir(ヴマヴェ・スヴァンマンティ)あなたは時々私に嘘をついていた。mentir v.t. 裏切る、嘘をつく

*sans que je vous en veuille < en vouloir(ジュヴザンヴィユ)直訳的には「私がそれを望んでいることなしに」⇒「望んでいなくとも」⇒「頼んでもいないのに」。日本語としては、相手に「望む」よりも「頼む」という言い方が一般的。(接続法)
*en vouloir には、そのまま「それを望む、そうしてほしい」という意味と、反語的に「~はご免だ、結構だ」という両極端のニュアンスがある。日本語でも「結構です」が「OKです」と「いりません」の両方に使うのと同じようだ。

Je ne suis pas sûr que(ジュヌスィパ・シュールク)~が確かではない。

juge d’instruction(ジュジュ・ダンストルクシォン)n.m. 予審判事
*soit dans les mêmes dispositions que moi < être(ソヮ・ダンレメーム・ディスポジシォン・クモヮ)私と同じ気持でいるかどうか(接続法現在形)
dispositions(ディスポジシォン)n.f. pl. 気持、意向、裁量  

décidera < décider(デシドラ)v.i. 決める、決定する(未来形)
retrouva < retrouver(ルトルヴァ)v.t. 取り戻す、探し出す(単純過去形)

ricanement(リカヌマン)n.m. 冷笑、嘲笑
fille de la rue(フィユドゥラリュ)n.f. 街娼

lancer(ランセ)v.t. 声を発する、投げる、開始する

*Ce serait le bouquet ! < être(ススレ・ル・ブケ)ひどいわ!、あんまりだわ!(条件法を使った柔らかい表現)通例では C’est le bouquet ! セル・ブケ)という。元々は花束が最上の贈り物としての意味だったが、最悪のものを皮肉った言い方で「最高だね!」と言うニュアンスの方がむしろ定着してしまったからのようだ。特に文字だけで読ませる場合は(そうした皮肉の表情が見えにくいので)「ひどいね!」「あんまりだ!」と訳すことが多い。
イメージ 1

フランスでは相変わらず花束を届けることが気持(愛情)を伝える手段となっている。Youtube 動画でも一つの花束がたらい回しに巡り巡って・・・などという寸劇が多く見られる。もちろん文字通りに「それは花束です」と言う場合もある。

Crédit photo : Une affiche du
cinéma « C’est le bouquet ! »
2002

*Qu’on m’arrête, moi ! (コン・マレト・モワ)逮捕しなさいよ。あたしを!(願望や命令を表わす語句)que 以下は接続法