フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

フランス語の慣用表現「手を火の中に入れてもいいくらい ⇒ 明らかにそうだ」

ー Vous croyez qu’elle en sait plus qu’elle n’en dit, patron ?
J’en mettrais la main au feu.
ー Vous voulez dire qu’elle serait … mettons complice ?
ー Je ne sais pas jusque-là mais l’histoire est certainement beaucoup moins
claire qu’elle voudrait nous le faire croire.
(©Georges Simenon : Maigret et l'indicateur; Chap.2)

「警視、彼女は話してない以上のことを知っていると思いますか?」
「明らかにそうだ。」
「彼女はつまり・・・共犯者ということですか?」
「そこまではわからない。だがこの話はたしかに彼女が我々に思い込ませようとしている以上にまったくはっきりしないんだ。」
(#101『メグレと匿名の密告者』第2章)

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*plus qu’elle n’en dit(プリュ・ケルナンディ):言わない以上のこと
この構文には「虚辞の ne 」が含まれている。厳密にいうと ne を外して「言ったこと以上のことを知っている」となるはずだが、そこに「まだ言っていないこと」があるはずという推測が働いて、ne を入れてしまう慣用表現になるのだ。
日本語にも「言わない前に」、「転ば先の杖」など「虚辞否定」が入る表現がある。
文中の en は「事件のことについて」の総称。

Jen mettrais la main au feu(ジャンメトレ・ラマン・オフー)「明らかにそうだ」 そのままで使える慣用表現。
(en) mettre la main au feu 直訳で「火の中に手を置く」⇒「もし違っていたら~手を入れてもいいくらいだ」⇒「絶対にそうだ」
「~してもいい」は条件法現在形 ~rais を使う。
*mettre は非常に有用な動詞の一つで、多彩な慣用表現がある。(今後も出てきます)

Vous voulez dire que~(ヴヴレ・ディール・ク)繁用語「~っていうことですか?」

mettons(メトン)<mettre  v. 仮定する、見込む(この意味としては接続詞的に文中に使われる)ニュアンスとしては:つまり、ひょっとしたら

complice(コンプリス)n.  共犯者、加担者

Je ne sais pas(ジュヌセパ) 繁用語「知らない」「わからない」

jusque-là(ジュスクラ)今のところ、そこまでは

moins claire que ~(モヮン・クレール・ク)~よりももっとはっきりしない

qu’elle voudrait nous le faire croire(ケル・ヴドレ・ヌルフェール・クロヮール)彼女が我々に思い込ませようとしたこと faire croire は使役動詞