フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(メグレ美術館)隠し金庫の前のドラクロワの絵

Au fait, une fois ici, où mettait-il cet argent ?
ー Dans le coffre.
ー Qui se trouve ?
ー Derrière cette toile de Delacroix que vous voyez à droite de la cheminée.
(©Georges Simenon : Maigret et l'indicateur; Chap.2)

「ところで、一度ここに持ってきたお金はどこに置いたんですか?」
「金庫の中です。」
「それはどこに?」
「暖炉の右側に見えるドラクロワの絵の陰です。」
(#101『メグレと匿名の密告者』第2章)

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au fait(オーフェ):つまり、ところで
une fois +(過去分詞・場所の副詞句)(ユヌフォワ):いったん~したら
coffre  n.m. 金庫、大箱、車のトランク 厳密にいうと金庫は coffre-fort  
*Qui se trouve ? これは「誰が?」という意味ではない。直前の「金庫」の話を受けて関係代名詞 qui を続けたもの。つまり le coffre qui se trouve où ?(その金庫はどこに?)


*toile de Delacroix メグレの事件簿には多くの画家の絵が登場する。原作者のシムノンが美術愛好家だったことをうかがわせる。ここでは、豊かでは
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あっても大富豪ではない家にドラクロワの油絵の実物があるはずはないのだから、複製画(レプリカ)と断定する。しかも主婦に「ドラクロワの」と言わせているだけ、一般的に「誰が見てもドラクロワ」とわかるものでなければならない。さらに壁の後に隠し金庫があるのを上手にごまかすだけの大きさも必要だ。家庭の中ではドラクロワの特徴である余りに荒々しい場面も好ましくない。そこで類推できる絵は『アルジェの女たち』あたりではないだろうか。
Crédit : Eugène Delacroix (1798 - 1863) - Femmes d'Alger dans leur apparte-
ment (1834) huile sur toile; Musée du Louvre, ©RMN agence photo

toile n.f. 画布、カンバス、油絵

à droite de(アドロヮト・ドゥ):~の右側に(右側という名詞としては女性形 e がつく)
cheminée  n.f. 暖炉