フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(こだわりの酒)のどが渇いて死にそうなビール

 Maigret pénétra dans la cuisine, ouvrit le réfrigérateur.
ー Vous permettez ?  demanda-t-il à Mme Barillard.
ー Dites-moi, commissaire…
ー Dans un instant, voulez-vous ?  Je meurs de soif.
 Pendant qu’il décapsulait une bouteille de bière, elle lui tendait un verre, à
la fois docile et effrayée.
(©Georges Simenon : La Patience de Maigret; Chap.6)

 メグレは台所に入って冷蔵庫を開けた。
「すいません」とバリヤール夫人に言った。
「何ですか?警視さん。」
「ちょっとお願いですが、のどが渇いて死にそうなので。」
 彼がビール瓶の栓を開ける間に彼女は従順さと恐しさの混じった様子でグラスを差し出した。
(#91『メグレと宝石泥棒』第6章; 原題は「メグレの忍耐」)

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pénétra < pénétrer(ペネトラ)v.i. 入り込んだ、侵入した(単純過去形)

ouvrit < ouvrir(ウヴリ)v.t. 開けた、開いた(単純過去形)

réfrigérateur(レフリジェラトゥール)n.m. 冷蔵庫

Vous permettez ? < permettre(ヴペルメッテ)すみません、失礼します

Dites-moi < dire(ディトモヮ)何でしょうか?(直訳では「言ってください」)

Dans un instant(ダンザンナンスタン)まもなく、今すぐ

Je meurs de soif < mourir(ジュムードゥスヮフ)私はのどが渇いて死にそうです mourir de ~ 死にそうなほど~する(de の後には名詞でも動詞でもいい)/mourir d’aimer 死ぬほど愛して/mourir de rire 死ぬほど可笑しくて
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*引用画像のビールのラベルは『死にそうな渇き』(La soif à mourir) となっている。のどが渇いたときに飲むのは「水」なのか「ビール」なのか? この醸造元の名前も「郷土愛」(L’esprit de clocher)というので、地ビールの一つと思われる。

Crédit photo : La Soif à Mourir de L'Esprit


décapsulait < décapsuler(デカプシュレ)v.t. 瓶の栓を抜いた(半過去形)

elle lui tendait < tendre(エルリュイタンデ) 彼女は彼に差し出した(半過去形)

à la fois(アラフォヮ)一緒に、同時に

docile(ドシル)adj. 素直な、従順な

effrayée < effrayer(エフレィエ)adj. pp. 怖がった

*このすぐ後、バリヤール夫人ミナ(Mina) に対する聞き込みが始まるが、彼女がフラマン語(ベルギーのオランダ語)を話していた少女時代の過去、第二次大戦の混乱の中で両親を失って、宝石加工の老人に助けられてパリにたどり着くまでの長い挿話が続く。事件の進行とは直接関係しないが、この作品に文学的な深みを添えて、結末に感銘を残してくれる。