フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(メグレ美術館)ユトリロが飲んだ赤ワイン

- Et quant à vous offrir l’apéritif, je n’ai que du gros rouge, le même que
buvait Utrillo et qui vous semblerait sans doute trop raide. (---)
 Maigret le regardait avec sympathie, car c’était en effet un des rares
spécimens encore vivants de l’ancien Montmartre.   
(©Georges Simenon : Maigret et l'indicateur; Chap.5)

「ところで一杯ご馳走しようと思っても、安物のワインしかなくてね。ユトリロが飲んだのと同じやつで、おそらく渋すぎるでしょうな。」
(---)メグレは彫刻家を好感をもって見つめた。それはつまり古きモンマルトルの稀にみる生き証人の一人なのだった。
(#101『メグレと匿名の密告者』第5章)

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ユトリロ Utrillo (1883-1955) は20世紀前半の画家。パリのモンマルトル地区のあちこちの通りを素朴な筆致と色づかいで描いた。アルコール中毒の症状から抜け出させるために絵を描いたという。
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Crédit photo : Maurice Utrillo, Rue Saint-Rustique à Montmartre, 1922; Édition Jean Fabris; ©SPADEM / ADAGP

quant à(カンタ)~については、~といえば

*offrir l’apéritif(オフリールラペリティフ)ここでのアペリティフは「食前酒」と訳すよりも(食事なしでちょっと)「一杯ご馳走する」程度に考えた方がいい。フランスではアペリティフだけのお呼ばれがある。せいぜい小一時間で、酒とおつまみだけでもてなすようだ。

je n’ai que~(ジュネク)~しかない、~しか持っていない

gros rouge(グロルージュ)安物のワイン(慣用表現・赤か白かの区別がないが、赤が一般的なので汎用となったようだ)

le même que buvait Utrillo(ルメームク・ビュヴェ・ユトリョ)ユトリロが飲んだのと同じもの (buvait  < boire 半過去形、倒置法になっている)

semblerait < sembler(サンブルレ)見える、思われる(条件法)

sans doute(サンドゥト)おそらく、疑いなく

raide(レド)adj. こわばった、硬直した、堅苦しい

avec sympathie(アヴェクサンパティ)好感をもって

en effet(アンネフェ)つまり、結局

spécimens(スペシメン)n.m. 見本、典型、代表例