フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(メグレ季節描写)8月の庁舎からの眺め

  Il n'était que neuf heures du matin et il faisait déjà chaud. Maigret dépouillait paresseusement son courrier en jetant parfois un coup d'œil par la fenêtre, et le feuillage des arbres du Quai des Orfèvres n'avait pas un frémissement, la Seine était plate et lisse comme de la soie

(Georges Simenon : Maigret et l’Homme tout seul, Chap.1er) 

 

 まだ朝の9時でしかなかったがすでに暑かった。メグレはけだるそうに郵便物を開きながら、時折窓から外に目をやっていた。オルフェーヴル河岸の木々の葉はそよともせず、セーヌ川の流れは絹布のように平坦でなめらかだった。

(#100『メグレとひとりぼっちの男』第1章)

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8月の暑い盛りの事件である。リュカとラポワントはバカンス中で不在。今から読み始めるのは季節感がズレているが、ジャン・リシャールのTV映画版でも秋ぐらいの分厚い服を着ていた。

 

Crédit d'image : Vue du Quai des Orfèvres, Paris 1er en été @Google street-view

 

Il n'était que neuf heures du matin < être(イルネテク・ヌヴーデュマタン)朝の9時でしかなかった(半過去形)ne ~ que  ~でしかない

 

et il faisait déjà chaud < faire(エ・イルフゼ・デジャショー)そしてすでに暑かった(半過去形)

 

dépouillait paresseusement son courrier < dépouiller(デプィエ・パレッスーズマン・ソンクーリエ)けだるそうに郵便物を開いていた(半過去形)

 

en jetant parfois un coup d'œil < jeter(アンジュタン・パルフォワ・アンクドゥイユ)時々一瞥しながら(現在分詞)

 

par la fenêtre(パーラフネートル)窓から

 

et le feuillage des arbres(エル・フイヤージュ・デザルブル) 木々の葉

 

n'avait pas un frémissement < avoir(ナヴェパ・アンフレミッスマン)そよともしなかった(半過去形)

*文法を習うときに n’avoir pas(~を持たない)という否定形では、名詞の冠詞は un / une ではなく、de になると教えられる。しかしここでは un となっている。おそらく「微動だにしない」「ひとつも動かない」という意味を強調したいためだろうと思う。

 

était plate et lisse < être(エテプラト・エリス)平坦でなめらかだった(半過去形)

 

comme de la soie(コムドゥラソワ)絹布のように