フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(メグレと印象的な女性たち)被害者の若い美人妻リーヌ

Quand elle ouvrit, elle portait, sur une chemise de soie blanche, un peignoir d’un jaune doré. Elle était jeune, beaucoup plus jeune que son mari, (---)  
Elle était grande, très blonde, avec un corps mince et souple de mannequin
ou de chorus girl. Elle pouvait tout au plus avoir trente ans.
(©Georges Simenon : Maigret et l'indicateur; Chap.1er)

戸を開けたとき、彼女は白い絹の下着の上に黄金色の部屋着を着ていた。夫よりとても若かった。 (---)  背が高く、美しい金髪で、ファッションモデルかショーダンサーのように身体は細くすらりとしていた。どう見ても30歳以上ではなかった。
(#101『メグレと匿名の密告者』第1章)

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*撃たれた顔役はメグレよりも年上の62歳くらいだったので、半分以下の年下の妻ということになる。若い美人妻という設定はメグレの事件簿に多く登場する。事件に関係する可能性もあるので、メグレはしつこいほど彼女に聞き取りを繰り返すが、次第にその気質や性格が表れてくる。容姿が非の打ちどころのない美女は、往々にして他人には素っ気ない、つんとした態度を示す。昔同じ場所で働いていたバーテンが語るには「結構高慢ちきだと思ってました」(Je la trouvais assez pimbêche.) シムノンは美醜はともかく、こうした個性の強い、知恵の働く女性を好んで印象深く描いている。
pimbêche a.(パンベッシュ)生意気な、高慢ちきな
イメージ 1

portait  < porter v.(ポルテ)着る

chemise  n.f.(シュミーズ)シャツ、下着

*peignoir  n.m.(ペニョワール)部屋着
メグレの捜査では昼夜問わず、関係者の家を訪ねて聞き込みをするため、家にいる女性はあわてて部屋着をまとって対応することになる。従って部屋着姿のシーンの頻度は高い。
peignoir または robe de chambre でフランスの通販サイトには沢山出ている。

jaune doré(ジョーヌ・ドレ)黄金色

beaucoup plus jeune que~(ボクー・プリュ・ジューヌ・ク)~よりもかなり若い

très blonde < blond(トレ・ブロンド)きれいな金髪

corps mince et souple(コール・マンス・エ・スゥプル)細長くしなやかな身体

mannequin  n.m.(マヌカン)ファッションモデル

*tout au plus(トゥトープリュ)多くても、せいぜい
女性にとっては「年相応に見えないこと」が大事なので、直訳の「多く見ても30歳だった」という言い方は日本語では好まれない。「30歳には見えない」ほうが受け入れられる。

*この事件の概容についてはこちらへ #101