フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

フランス語の慣用表現「立っていられない⇒ 通用しない」

« Bien entendu, poursuivait le colonel, ce testament ne tient pas debout. Il comporte je ne sais combien de clauses de nullité (---) Couchet oublie simplement de parler de son fils !

(©Georges Simenon : L’Ombre chinoise; Chap.7) 

 

「当然のことながら」と大佐は続けた。「この遺言状は形になっていませんよ。無効な条項が沢山含まれているんです。 (---) クシェは息子のことを話すのを単純に忘れているんです!」

(#13『メグレと死者の影』第7章)

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*被害者の妻の伯父にあたる大佐が遺言状を見つけたのだが、机の中に下書きのような状態で入っていた。彼はメグレを呼んで状況を説明する。しかしその中身は常軌を逸脱していた。正妻と前妻と愛人の三人の女に均等に分与するということと、息子のことは無視していたのだ。

 

Bien entendu, poursuivait le colonel < poursuivre(ビァンナンタンデュ・プーシュイヴェ・ルコロネル)「当然のことながら」と大佐は続けた(半過去形)

 

*ce testament ne tient pas debout < tenir(ステスタマン・ヌチァンパ・ドゥブー)この遺言状は形になっていない(←立っていられない)

ne pas tenir debout 体をなさない、矛盾している、通用しない、立っていられない

tenir debout しっかり立っている、生きている、存続している

 

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Il est impossible de se tenir debout en ce monde sans jamais se courber. 

- Proverbe japonais @citation-celebre.com

 

**この tenir debout を調べているうちに、《日本の諺》として紹介されている文例を見つけた。「この世の中では、身をかがめることなしに(立って)生きて行けない。」というような意味だと思うが、元々の日本語の諺は何なのか?すぐには思いつけなかった。「実るほど頭を垂れる稲穂かな」の可能性もあるが、フランス人なら小麦や葡萄に置き換えるだろうと思うので、もっと別の諺だろう。ご存じの方はご教示いただきたい。

sans jamais ~なしに(jamais は強調で付加?)

 

*Il comporte je ne sais combien de < comporter, savoir(イルコンポルト・ジュヌセコンビァン・ドゥ)それは沢山の~を含んでいる(現在形)

je ne sais combien(慣用句)数えきれないほど沢山の、多くの

 

clauses de nullité(クローズ・ドゥ・ニュリテ)無効となる条項

 

oublie simplement de parler de son fils < oublier(ウブリ・サンプルマン・ドゥパルレ・ドゥソンフィス)彼の息子のことを話すのを単に忘れている