フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(フランス語の tu と vous)tutoyer はほとんどしない人

ー Vous vous tutoyez ?

ー Je tutoie peu de gens.  Cela tient peut-être à l’atmosphère protestante de Nîmes, où je suis né et où j’ai passé ma jeunesse.

ー Vous ne tuyoyiez pas Éveline Jave non plus ?

ー Non.

 Un non assez sec.

(©Georges Simenon : Maigret s’amuse; Chap.3) 

 

「あなた方は互いに親しい口をきいてましたか?」

「私は親しい口をきく人はほとんどいません。私はニームで生まれて、少年時代を過ごしたので、おそらくそこのプロテスタントの雰囲気のせいでしょう。」

「エヴリーヌ・ジャーヴにも親しい口はきかなかったんですか?」

「ないです。」

 かなり冷淡な否定だ。

(#77『メグレ推理を楽しむ』第3章)

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*一般的に身内といわれる間柄以外での仲間内言葉(いわゆるタメ口)はあまり使うことがないという人も多い。特にフランス語の場合は、二人称のうち tu か vous のどちらを使うかで動詞の活用形も変わってくるので、より厳密になるように思う。フランス語ではかなり親し気な会話を vous で使うこともできる。(メグレの場合は、パルドン医師との間でも互いに vous を使っている。)

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Crédit photo : Musée protestant, Nîmes, Gard

https://www.museeprotestant.org/notice/nimes-gard/

南仏のニームは宗教革命の時代にプロテスタントの拠点の一つとなっており、その後の新旧教徒の抗争では親族間でも殺し合うような対立が続いた。

 

*Vous vous tutoyez ? < tutoyer(ヴヴ・チュトワィエ)あなた方は互いに親しい口をきいていますか?(日本語では直近の物事でも複合過去形風に言う方が自然になる)こうした質問をすること自体、フランス人が tu を使うかどうかを常に気をつけている証拠にもなる。

 

Je tutoie peu de gens < tutoyer(ジュ・チュトワ・プードゥジャン)私はわずかな人にしか親しい口をききません

 

*Cela tient peut-être à l’atmosphère protestante < tenir(スラ・チァン・プテートル・アラトモスフェール・プロテスタント)それはおそらくプロテスタントの雰囲気のせいでしょう

 

tenir à ~に起因する、由来する、~に執着する

**huguenot(ユグノー)フランスでは新教徒のことを「ユグノー」と呼ぶと習った覚えがあるが、これはカトリック側からやや蔑みを含んで呼んでいたという。プロテスタントは自分から「ユグノー」とは言わないようだ。

 

où je suis né(ウ・ジュシュイネ)私が生まれた所 

 

où j’ai passé ma jeunesse < avoir, passer(ウ・ジェパッセ・マジュネス)私が少年期を過ごした場所(複合過去形)

 

*Vous ne tuyoyiez pas xxx non plus ? < tutoyer(ヴヌ・チュトワィイエパ・ノンプリュ)あなたは xxx にも親しい口をきかなかったのか?(半過去形)

ne ~ pas xxx non plus : xxx にも~しない

 

Un non assez sec(アン・ノン・アッセセック)かなり冷淡な否定