フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(こだわりの酒)風邪封じのカルヴァドス

  Persuadé qu’il avait encore du temps avant l’arrivée de l’ambulance, il entra dans un bistrot, commanda un calvados (---)

ー Remettez ça !

  Il avala un second calvados, avec l’impression qu’il était en train de couver un rhume, puis traversa la rue et pénétra sous la voûte au moment où une ambulance arrivait.

(©Georges Simenon : Maigret, Lognon et les gangsters; Chap.3) 

 

 救急車の到着まで時間があると思ったので、彼はビストロに入り、カルヴァドスを注文した。(---)

「もう一杯頼む!」

 彼は風邪を引きかけているような気がして、二杯目のカルヴァドスを飲み干した。それから通りを横切って病院の正面アーチに入った。ちょうど救急車が到着していた。

(#66『メグレと生死不明の男』第3章)

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Persuadé que < persuader(ペーシュアデ・ク)~と確信して

 

il avait encore du temps < avoir(イラヴェ・タンコーデュタン)まだ時間があった(半過去形)

 

avant l’arrivée de l’ambulance(アヴァン・ラリヴェ・ドゥランビュランス)救急車の到着まで

 

*il entra dans un bistrot < entrer(イラントラ・ダンザンビストロ)彼はビストロに入った(単純過去形)メグレの原作には、しばしば現実と同じ場所に同じような店があったりする。ここでも通りの向い側に店がある。メグレ物の聖地巡礼者(いるとしたら)にとっては望外の喜びだろう。

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Crédit photo : Vue d’un café-brasserie situé en face de l’Espace Beaujon, rue du faubourg St.Honoré, Paris 8e @Google street-view

 

commanda un calvados < commander(コマンダ・アンカルヴァドスカルヴァドスを注文した(単純過去形)

 

*Remettez ça ! < remettre(ルメッテ・サ)もう一杯注いでくれ!(常用句・命令形)remettre v.t. 再び置く、戻す、注ぎ足す、延期する、くり返す

 

Il avala un second calvados < avaler(イラヴァラ・アンスゴン・カルヴァドス)彼は2杯目のカルヴァドスを飲み干した(単純過去形) 

 

avec l’impression que(アヴェク・ランプレシォン・ク)~のような気がして

 

*il était en train de couver un rhume < être(イレテ・タントランドゥ・クヴェアンリュム)彼は風邪を引きかけていた(半過去形)

être en train de ~の途中である、~しようとしている

couver un rhume 風邪を引きかけている、風邪の兆候 

couver v.t. 兆候を示す、抱える、卵を孵化する、ひそかにたくらむ

 

puis traversa la rue < traverser(ピュイ・トラヴェルサ・ラリュ)それから通りを横切った(単純過去形)

 

pénétra sous la voûte < pénétrer(ペネトラ・スーラヴート)建物の正面アーチの下に入り込んだ(単純過去形)

 

au moment où une ambulance arrivait < arriver(オーモマンウ・ユナンビュランス・アリヴェ)その時には救急車が到着していた(半過去形)



**蛇足の記事

 上掲の画像の左手に見える185番地の青い扉の家に銘板が見える。よく見るとバルビゾン派の風景画家だったアンリ・アルピニー(Henri Harpignie, 1819-1916) が住んでいたとある。アルピニーは日本ではほとんど知られていないが、印象派の先駆者だったカミーユ・コロー(Camille Corot, 1796-1875) の親友でもあった。アルピニーは長寿で、印象派の全盛時代となる1880年代でもまだ制作を続けていた。下に引用した「ブリアール川の鉄橋」もコローの手法に酷似した作品となっている。同時代の風景画家で名前が似ているドービニー(Daubigny) もいるが、別人だ。

 

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Crédit photo : Henri Harpignie - Pont ferroviaire sur la Briare, 1888; Oklahoma, Tulsa, Philbrook Museum of Art, USA.@Wikipedia