フランス語で楽しむ「メグレ警視」

メグレ警視の原作本を味読する立場からフランス語の謎解きを試みます。横文字の文章を読み慣れるように

(フランス語の tu と vous)夫婦の会話で vous

  Pendant qu’il déjeunait, boulevard Richard-Lenoir, sa femme ne put en tirer un mot. (---) 

ー Ce n’est pas votre faute si cette Cécile… risqua-t-elle.

Car, à ces moments-là, elle le vouvoyait.  De même lui arrivait-il de dire, en parlant de lui :

ー Le commissaire...

(©Georges Simenon : Cécile est morte; Chap.2 de 2e Partie) 

 

 リシャール・ルノワール大通りの家で彼が昼食をしている間、夫人は一言も話してもらえなかった。(---) 

あなたのせいじゃないでしょ、もしそのセシルが・・・」彼女は思い切って言ってみた。というのもその時、彼女は改まった口調をしていたのだ。同じようにして彼を「警視」と呼ぶこともあった。

(#41『セシルは死んだ』第2部・第2章)

 

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*夫婦の間では互いに tu を使うのが普通である。(高貴な方々の間では vous かもしれない)身内だから親しい者同士の言葉遣いをするのだが、例えば夫婦喧嘩の後、しばらくは「よそよそしい」言葉遣いになる場合も皆経験することだ。上記の例は非常に珍しく、メグレが事件のことで頭が一杯になっていて、ロクな会話にならないので、夫人が改まった口調になったのだろう。

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Crédit photo : L’écran sur Youtube

Téléfilm italien “Un ombra su Maigret” (Cécile est morte) 1964 ©RAI  

avec Gino Cervi  @lellos68 

 

Pendant qu’il déjeunait < déjeuner(パンダン・キルデジュネ)彼が昼食をしていた間(半過去形)

 

*sa femme ne put en tirer un mot  < pouvoir(サファム・ヌピュタンチレ・アンモ)彼の妻は一言も引き出せなかった⇒ 夫人は一言も話してもらえなかった(単純過去形)

辞書の用例:On ne peut rien en tirer de lui.(彼から何も聞き出せない)en は言い回し上で追加されたようだ。

 

Ce n’est pas votre faute(スネパ・ヴォートルフォート)あなたのせいじゃない(常套句)

 

risqua-t-elle < risquer(リスカ・テル)彼女は思い切って言った(単純過去形)

 

*à ces moments-là(アセモマンラ)その時(単数で à ce moment-là を使う場合も多い)ここで複数形なのは、時々そうなる場合があるからだろう。 

 

*elle le vouvoyait < vouvoyer(エルル・ヴヴォワィエ)  彼女が彼をあなたと呼んでいた(半過去形)女性が日本語で「あなた」という呼称を使うのは特別ではない。日本語の呼称のニュアンスとフランス語のそれとは必ずしも一致しない。

 

De même lui arrivait-il de dire < arriver(ドゥメーム・リュイアリヴェティル・ドゥディール) 同じように~と言うこともあった(半過去形)il は非人称

 

en parlant de lui < parler(アンパルランドゥリュイ)彼のことを話しながら(現在分詞)